第一診


「やれる事とやりたい事」
長い冬がやっと終わり、田植えの準備のため田んぼに水を張り始めるころ、 ちょうど農作業の
中休みになるかのような、ある雨の日

(私)
おはようございます。 今日はどうされました?

(70代のまだ十分元気なおばあさん)
<しっかりした足取りで診察室に入ってきて、シャンとした姿勢でいすに座って>
いや、どうもこうも立ち上がればめまいがするし、ムカついてご飯も食べられなくなって活気がない。 昨日なんかは、昼前に一度吐いてしまって、夕食も食べられなかった。 どこか悪くなってるに違い
ないから来た。

(私)
そうですか、それはお辛いですね。
ちなみに今、診察室に入ってくるときにはあまりふらついた様子ではなかった様子ですが、
昨日と比べて具合の悪さは同じですか?
それとも悪くなってきていますか?
少しは良くなっている様ですか??

(おばあさん)
うん、今朝起きてからは胃のほうもちょっと落ち着いて、朝飯も食べられている。
病院の待合にすわって近所の知り合いとしゃべっていたら大分いい。

(私)
そうですか、一応念のため、健康診断代わりになる検査を一通りやってみましょう。
<一般診察では特に所見なく、X線写真や採血、心電図などでも異常は見当たらない>

(私)
うーーん、検査では、特に悪くなっている様な所は見当たらないですね。
ちなみに、具合の悪くなる前後、少し忙しすぎませんでしたか?
ちょうど田植えの準備も始まって、春仕事がいっぱいでしょう??

(おばあさん)
いや、そんなはずはない。
そりゃ、疲れるし、朝も早くから動き出すから、無理やり体を蒲団から引っ張りだすけど、
毎年やっている事で今年だけ特別というわけではない。 今までこんな事、起こした事ないのだから、
どこか壊れたに違いないんだ!!

(私)
そうですか・・・・ <ここでメモ用紙を一枚とりだす>
あのですね、
<メモ用紙の一番上に「何もしないでいると、体が衰えるので、やれる事をやれる位にやっていく」
と書く>
これは大変いいことなのですよ、それでね、言葉的にはよく似ているのだけど、
<一番下に「やりたい事をやりたい位やる」と書く>
これはいけない事なのですよ。
言葉的にはとても似ているのだけど、けして同じ意味でなないのです。
<先に書いた二つの文の間に「つかれたな・・・」「せつないな・・・」「きつくなってきた・・・」と三行
並べて書く>
これは、体がこのままの使われ方をすると本当に壊れるので、そこまでにしてくれという
サインなのですよ。
<先ほどのフレーズをかっこで囲み「体のそこまでサイン」と書き足す>
でも、やりたい位やる人というのは、
<「まだやる事が見えるので、せめて区切りがつくまでやっつけましょう」と書き足す>
とやってしまうものなのですよね、これは自分としてはやりたくてやっている事だから、
けっして特別だとも無理な事とも思わないのですが、体に言わせるとどうでしょう?
これ以上はやめてと言っているのに続けて仕事をさせられているのだから、
<「無理!!」と書き足す>
なんですよね。
だから体にしてみれば、「お、無理をかけたな、では具合を悪くしてやろう。」ということになっても
何の不思議のない事なのですよ。
それで、出来る位にやっていく人というのは、体が此処までと言っているのだから、
<「今日はここまで、残りは明日」と書き足す>
とやるわけです。 そうすれば、無駄な疲れが残らないので、次の日もしゃきっと起きてぱっと動ける
というわけです。

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