第三診


「やれる分だけやればいいのですよ。」

(おばあさん)
それはそうかもしれないが、あれもこれもやって仕舞わなければならない事ばかり、
しかも代わりにやってくれる人もいないのに、無理でもやるしかないのだから仕方がない。

(私)
それはその通りですね。
<またまた、メモを一枚取り出して>
<おまんじゅうがたに盛り上がった仕事の山を描く>
たしかに、やりたい事、やらなければならない事、てんこ盛りでやりつくすなんて事は、
なかなか出来ないですよね。
でもね、その仕事の山をよくすかしてみると、
<おまんじゅうの端っこを小さく塗りつぶし、そこから線を引きだして
「今やらなければ、命にかかわる事」と書く>
息をしなければ生きられない、食べなければ生きていけない。
落ちてくる石から逃げなければ、当たって死んでしまう。
それをしないと死んでしまうことなら、それをやることで命をなくしても仕方がない。
<塗りつぶした隣に、また小さく斜線を引いてくぎり、そこから線を引きだして
「今やらなければ、二度とやりなおしの出来ない事」と書く>
親の死に目に会いに行くとか、子供が川に流されそうになっているのを必死で
捉まえに行くとか、たき火が家に燃え移りそうになっているのをバケツで消し止
めるとか、とにかく今を逃したら二度と取り返しのつかない物のためなら、
命をかけても仕方のない事もある。
だけど、それってやらなきゃならないと思っている事の中で、どのくらいありますか?

(おばあさん)
そう言われたら、そんな大事はめったにないよな。

(私)
そうですよね。
じゃあ、残った大部分はなんでしょう。
<白く残った部分から線を引きだし「今やらなくても、命にはかかわらない」
「今やれなくても、やり直しが出来る」と二つ続けて書く>
今やらなくても、命には係わらないし、今やれなくても、後でやり直しのきくものという事ですよね。
そういった事のために体を壊すのって、馬鹿らしくないですか?
<おまんじゅうの半分くらいに縦線を入れて、塗りつぶした部分が入った半分から線を引きだし
「出来る分」真っ白な半分からも線を引きだし「明日」と書く>
どうしてもやって仕舞わなければならない事は仕方がないとして、
そのほかの物はその日に出来る分だけやって、残りは明日でいいのではないでしょうか?

(おばあさん)
まあ、そう言われればそのとおりなんだけど、中途にすると気分が悪いから、やって仕舞いたくなるんだよね。

(私)
そこです。
その欲と二人連れとなった時に、身体(からだ)の声を無視してしまうことになるのです。
草取りも、別に今日中に取って仕舞わなければ草が逃げてしまうから、もう取れなくなる
というわけではないし、草が首丈まで延びたら首を切られるわけでもない。
床を指でなぞって、埃がついたら鞭で打たれるわけでもないし、確かに、今、鍋から料理
を移そうとする皿がなければ困るけど、食卓を整えるのに必要な食器が並んでさえいれば、
たとえ、流しが山盛りになっていても困りはしないでしょう?
やれる分だけの仕事をして、残りは、やれるときにやればいいのですよ。

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