第一診


「ずっと飲まなきゃいけないの??」

梅雨の中休み、久しぶりにからりと晴れた気持ちのいい週の初め

(私)
おはようございます。
このごろの調子はいかがですか?
 
(50代のがっしりした男性)
<ちょっと顔をしかめて診察室に入ってきて>
いや、さっぱり良くない。
薬を飲んでいる時はちょっと良かったんだけれども、何度も何度も胸やけが出て
さっぱり良くならない。
昨日ちょっと寄りあいがあったんだが、今朝は胸のじりめき
のために寝ていられなくなったから来た。

<半年前の胃検診で胃のヘルニアを指摘されて来院、この病院で胃カメラの二次検査をやっており、逆流性食道炎の診断で薬を処方されている。>

(私)
やあ、そうですか。
差し上げた薬が弱いのかな?
<カルテの記録で処方を確かめる>
あれ?前回30日分の薬を差し上げたのに、45日ぶりの来院になってますね。

(男性)

そうなんだ。
あの薬を飲んでる間は、ピタッと胸やけが止まって、しっかり治ったと思ったもんだから、そのまま止めてしまっていたんだが、一週間ぐらい前からまた頻繁に胸やけが出るように
なっているんだよ。


(私)
<ちょっとため息をつきながら>
それは仕方のない事なのですよ。
あなたの病気は、胃の構造の変化に伴って食道粘膜がただれを起こすもので、
ただれが起きるたびに胸やけしてしまうため、薬と一生付き合っていかなければ
ならない物なんです。


(男性)
そうなのーー?
薬を飲めばすぐ痛みが引くし、痛みが止まってしまえば治ったってことではないのか??

(私)
確かに、一回一回の食道の粘膜のただれは、薬を飲むことで落ち着かせる事が出来るし、
一度落ち着かせてしまえば、また新しいただれが出来るまでは、薬を中断させても症状
が出ることはないのですが、病気そのものが治って、二度と症状が出ることはないという
わけにはいかないんです。


(男性)
<とても不満そうに>
えー、じゃあ、痛みがあってもなくても、ずーっと続けて薬を飲まなければなければ
ならないってことかい??

(私)
残念ながら、そうなんです。


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