第二診


「急性の病気と慢性の病気」

(男性)
うーん、そうなんだーー
だって、風邪のときとか腹下しのときとか、たいていの病気の時は症状がある時
だけ薬を飲んで、症状が治まったら終わりになるじゃない。

なんでそれとは違うの??

(私)
そこが、急性の病気と慢性の病気の違いとなります。
急性の病気というのは、おもにウイルスや細菌などの感染が原因となって引き起こさ
れる病気で、ウイルスや細菌からの攻撃が続いている時に症状が出るのですが、
攻撃を撃退することが出来れば、それで病気そのものが終了するので、症状を抑える薬
を症状が続いている間飲むだけで、その後にだらだら薬を飲む必要はありません。

ところが、慢性の病気というのは、体の構造や体質の変化、生活習慣による持続的な
体への負担、希に起こるウイルスや細菌の長期にわたる持続的な感染などが原因と
なって起こる病気の事で、一回一回の症状はそれに対応する薬でしのげますが、
何度も持続的に症状を繰り返すため、症状の再発を起こしにくくするために、
行き過ぎた体の働きを調整したり、体へかかる負担を軽減させたりする薬を飲み
続ける必要があります。

(男性)
そうか、だから俺の場合、胃の恰好が変わったために、胸やけが出やすくなっている
ので、それを抑える薬ってやつは、切らせばだめなんだ・・・


(私)
解っていただいて幸いです。
基本的に、慢性の病気に対して薬で出来る事は、あなたが苦しんでいる強い症状を
早く楽にしてあげる事と、体の働きを調整することで同じ症状を出し難くさせて、
あなたが快適に過ごせる時間を延ばしてあげる事の二つとなります。

あなたの場合、まず、胸やけが強い時にだけに使う、頓服のトロリとした緑色の水薬で、
ただれた粘膜を覆って保護し、胸の痛みを早く軽くしてあげて、そのうえに胃酸の出過ぎ
を抑えて粘膜への攻撃を弱める薬と粘膜を強化して守りを固めさせる薬を組み合わせて、
毎日定期的に飲む事で食道粘膜のただれの再発を起こしにくくさせているのです。

(男性)
あの薬の中身はそうなっていたんだ。

(私)
たとえて言えば、柄にひびの入ったスコップに添え木を当てて、とりあえず使えるように
するようなものです。

ちょっと不便ですが、添え木を外さなければ普通に使えます。
でも、固い土に乱暴に突き刺したり、重い石の下に入れてこじるような無茶な使い方を
すると、添え木ごと折れてしまいます。

逆に、ただそっと仕舞っておくだけなら、添え木を外していても勝手に折れることはない
のですが、添え木を外したまま使ってしまうと、またみしみしとひびを広げることになり、
次はもっと太い添え木が必要になってしまいます。

(男性)
厄介なもんだ。
それでさ、そのスコップのひびの入った柄そのものを取り替えて、新品のスコップに
してしまうってことは出来ないのかい?

(私)
確かに、胸とお腹を同時に開ける大がかりな手術で、逆流を起こし難い胃の形に作り直
す方法はありますが、相当な体への負担を覚悟する必要があり、まだ薬で調節がつけら
れているうちは、けっしてお勧めできる方法というわけではありません。
今のところ、人間の体というものは、機械と違って、「故障した部品をひょいと新品に
取り換えて、故障自体を無かった事にする」って訳にはいかないんですよ。

(男性)
なるほど、薬をやめてしまえないというのは分かった。
でも、薬の効果で体の働きを調整することで、症状を出し難くさせているということなら、
必要な薬の強さとか量というのは、体の使い方で変化するという事かい?


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