第一診


「だって、薬はちゃんと飲んでいるのに!!」

梅雨がまもなく開けそうな初夏のある日

(私)
おはようございます。
今日はどうなさいました?

(40代のちょっと神経質そうな主婦)
<マスクをして、咳払いのような咳をしながら入ってくる>
三週間前から風邪につかまって、なかなか治らないのよ。
今も、のどが痛くって、黄緑色の鼻水が出て、のどに痰が絡まるものだから、咳が止まらなくて困っているの。

(私)
三週間もずっと症状が続いているのですか?
それは大変つらいですね。

(主婦)
そうなのよ。
初めは市販薬を買って飲んだけど全然効かなくて、近くのA先生のところに行って風邪の薬をもらって、それを飲んだらちょっと良くなったと思ったんだけど、薬が切れたら症状がぶり返して、もう一回A先生のところに行って薬をもらいなおしたんだけど、やっぱり薬が無くなったら、症状がひどくなるの。
こんなにしつこい風邪は初めてだわ。
何かおかしい事になっているんじゃないかと心配で今日はこちらに来たの。

(私)
そうなんですか。
<問診用紙を見ながら、>
今朝の体温は37度ですね。今まで、38度を超える高い熱は出ていないし、食事や水分はとれているのですね。
では、ちょっと診察をさせてください。
<一通り診察をして、のどが赤くなっている事と扁桃腺がそこそこ腫れているが、まだ膿がついた状態にはなっていない事、呼吸音に乱れはなく、喘息や肺炎の所見は出ていない事を確かめる。>
<改めて患者さんの目を見つめながら>
はい、大体わかりました。
で、あなたは、風邪を治すために何をしましたか?

(主婦)
<「何を言っているの?」的なポカンとした顔をしながら>
え??
ですから、しっかり風邪薬を飲んだんですよ!
今までは、二回も風邪薬を飲めばちゃんと治っていたのに、三回飲んでも治らないなんてなんか変なことになっているのに違いないんだわ。

(私)
なるほど。
では、あなたは、風邪は風邪薬を飲めば治るものだと思っているのですね?

(主婦)
<ますますポカンとした顔をしながら>
風邪薬は風邪を治すためにあるのでしょう?
だって、「風邪をひいたら、風邪薬を飲め」って、テレビのコマーシャルでもやっているじゃない。

(私)
じつは、それが大間違いなのです。
今のところ、まだ世の中には、「これさえ飲めば風邪を治せます。」という薬はないんです。

(主婦)
じゃあ、あっちにもこっちにもいっぱい「風邪薬」ってあるのに、あれは何なの??

★前に戻る                       ★次に進む

[プロローグ戻る]