第二診


「風邪はひとつの病気ではありません」
(私)
今日もいわゆる「風邪薬」が出るのですが、その効能書きをよく見てほしいのです。
そこには「風邪の諸症状の緩和」と書いてあるはずなのですが、「風邪を治します。」とは一言も書いていないのですよ。

(主婦)
薬を飲めば症状が良くなるってことでしょう?
それが治るってことではないの??

(私)
そこに大きな誤解があるのです。
そもそも風邪というのは、一つの病気の名前ではないのです。
鼻から胸にかけての空気の通り道の粘膜に取り付いて悪さをする、色々なウイルスの病気を全部
ひっくるめて風邪と呼んでいるのです。
たとえて言うと、タイヤが付いているから車と呼びますが、それは赤ちゃんが乗るような三輪車から、F1のようなスポーツカーから、建設現場で使う重機まで、様々な種類の物を一まとめにして車と
呼ぶようなものです。

(主婦)
そうなんだ、てっきり「風邪」って一つの病気があるもんだと思っていたわ。
これに「風邪」って昔からずっとある病気じゃない、だから、今になってもそれにきっちり効く薬が
出来ていないなんて事はないはずで、「私の風邪がなかなか治らないのは、今かかっている
お医者の見立てが悪くて、私の風邪に合った薬を出せていないせいだ」って、そう思ったから、
今日はこちらの病院に来たんだけど・・・

(私)
残念ながら、そうではないんです。
「風邪を治す」ためには、その時に感染しているウイルスの種類を確かめて、それに合わせた
ワクチンを投与する必要があるのですが、星の数ほどもあるウイルスのすべてに対応するワクチンを全種類用意するなどという事は、現実には出来ない相談なんですよ。
その中で、「インフルエンザ」という風邪は、強力な感染力を持っており、その上、悪化させてしまうと特に危険な風邪で、これが原因で毎年死ぬ人も出ているので、以前から予防のためのワクチンがあったし、近年になってやっと「インフルエンザの悪化を防げます」という薬も出たのですが、一般の風邪に対しての、同じような薬はないのです。

(主婦)
さっき、「風邪薬を飲めば症状が軽くなる」って言ったわよね?
でも、それが「風邪が治っている事とは違う」って、どういう事なの??

(私)
いわゆる「風邪薬」を飲めば確かに症状は軽くする事が出来ます。
でも、それは今説明したとおり、薬が風邪そのものをやっつけて、風邪がいなくなったから症状がとれているのではなくて、風邪から湧き上がってくる症状を体に感じさせないように誤魔化しているだけなんですよ。

(主婦)
症状を感じないように誤魔化しているだけだなんて、じゃあ風邪薬って本当には何の意味もないってことなの?

(私)
何の意味もないというわけでもないのですが、風邪を治すという意味ではその通りです。
風邪は薬で治るものでは無いと解って頂いたところで、でも、たいていの風邪はちゃんと治りますよね。
なぜ治るのだと思いますか?

(主婦)
解らないわ。
自然に治るものだとでもいうの??

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