第一診


「え、熱って下げちゃいけないの!!」

新型インフルエンザに対する警戒が叫ばれている、残暑の強いある日
<発熱外来に小学三年生の女の子を連れたお母さんがやってくる>

(私)
おはようございます。
いつから具合が悪くなったのですか?

(お母さん)
昨日の夕方からです。
朝学校に出る時には何ともなかたのですが、夕方にうちに帰って来た時には、火照ったような赤い顔をしていて、熱を計ったら38度有ったんです。
それで子供に聞いてみたら、同じクラスの中にインフルエンザでお休みした子がいるって言っていたので、そうかな?と思ったんですけど、あんまり早いと病院に連れて行っても診断がつかないって聞いていたので、その時はまだ元気があったし、ご飯も食べられたので様子を見ていたんです。
それで、今朝になったら熱が39度に上がっていて、ちょっとぐったりしてきたようなので、急いで連れてきました。

(私)
一晩待ったのは、賢明な判断でしたね。
<A型のインフルエンザの反応が陽性となった迅速診断の結果を見せながら>
おかげで、確実な検査が出来ました。
お熱が出てすぐだと、体の中でウイルスが十分に増えていないために、実はインフルエンザなのに、検査では陰性となることがあるんです。

(お母さん)
やっぱり、インフルエンザなんですね。

(私)
<女の子に向き直して>
では、ちょっと診察をさせてくださいね。
<一通り診察をして、のどは赤くなっているが、扁桃腺は腫れておらず、膿の付着も認められない事、呼吸音に乱れはなく肺炎の所見も出ていない事。手足は暖かく体熱感があるのに汗は出ておらず、皮膚が乾燥している事と、意識はハッキリしているのに、ヘロヘロと体に力が入らない、ダルそうな様子を確かめる。>
一番、具合の悪いところはどこですか?

(女の子)
とにかくダルくって、それにあちこちが固まったようにギシギシして、動けないの。

(私)
なるほど、昨日まではご飯が食べられていたってことだけど、今朝はどうでした?

(お母さん)
今朝はジュースを少し口にしただけで、ご飯は食べられませんでした。

(私)
<女の子に向きなおして>
吐き気とかするの?お腹は痛くない?

(女の子)
ううん、お腹は何ともないんだけど、食べる気がしないの。

(私)
解りました。
では子供なので、インフルエンザの薬は「タミフル」ではなく、意識障害の副作用が出にくい
「リレンザ」のほうで出しておきますね。

(お母さん)
あのー、熱さましも、出してもらえますよね?

(私)
もちろん、出ますよ。
熱さましはシロップの頓服で出しておきます。
体温が39度を越していて、なんか元気がないかな?という時だけ使ってくださいね。

(お母さん)
<とてもびっくりした顔をして>
え!!?
熱があるって危険な事だから、ちゃんと熱さましを使って、すぐに平熱まで下げなければならないのではないんですか??

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