第二診


「熱があっても、機嫌良く過ごせているなら心配ないのです」
(私)
確かに「熱が出た」という事は、何らかの感染が起きているなどの体からの「異常サイン」なのですが、必ずしも急いで下げる必要はないし、熱を下げる事でかえって病気を長引かせるようなことにも
なりかねないのですよ。

(お母さん)
<ますます驚いた顔をして>
だ、だって、「異常サイン」なんですよね?
異常はないほうがいいんじゃないですか??

(私)
それが間違いのもとなのですよ。
風邪のような感染がある時に熱が出るのには理由があります。
一つ目は、感染が起きている事を全身に知らせて備えをさせる事。
二つ目は、わざと体内の温度を上げることでばい菌やウイルスの活動を抑える事。
三つ目は、感染を防ぐ免疫の働きの効率を上げる事。
それなので、「熱が出たから、熱さましを使って平熱に戻す。」という事は、言い換えると「何かの
異常が起きてアラームが鳴ったのに、アラームだけ消して何の対応もしない。」ということで、
実は何の解決にもならないし、とても危険な事なのです。

(お母さん)
えー、そうなんですか??
でも、熱があると「ひきつけ」を起こしたり、体に障害が残ったりしますよね。

(私)
さすがに、体温が42度を越して高くなってくると、内臓の働きが妨げられるようになり、それが長引くと色々な障害の元となってしまうのですが、基本的に人間の体というのは、40度ぐらいまでの熱では特に悪い事は起きない物なのです。
ですから、体温が39度を越していて、元気がないような時には、熱さましを使って余分な熱を下げてあげるのですが、38-39度の熱があっても、食欲があって、機嫌良く過ごせているなら、頭だけ冷やして寝かせておけばいいのです。

(お母さん)
へー、40度までは大丈夫なんだ・・・

(私)
それよりも肝心なのは、発熱の原因となっている感染を早く落ち着かせる事。
そのために、ばい菌の感染であれば抗生剤も使いますが、インフルエンザの様なウイルスの感染の場合は、感染と戦う免疫が十分に働ける様に、「しっかりと栄養を摂り、安静を保ち、体力を落とさない様にする」ことが何より肝心で、この感染さえ治まってしまえば、体温も自然に平熱まで下がってきます。

(お母さん)
そういうものなんだーー

(私)
実は、子供の持っている「病気から立ち直る力」というものは、もともと大人の何倍も強いのですが、逆に体力の面で大人に大きく劣っています。
具合が悪くなると、食事と水分の摂取が滞りがちになり、体力に維持に失敗して、病気を悪くする
ケースが多いため、子供は病気に弱いと思われがちなのですが、逆に体力を維持させることさえ
できれば、たいていの事は乗り越えられるんです。
つまり、「熱がある」、「咳が出た」、「下痢をした」と一つ一つの症状の変化で一喜一憂せずに、
「しっかり食べられているか」、「しっかり水分がとれているか」、「元気をなくしてはいないか」という
ことのほうが大事なんです。

(お母さん)
なるほど、「熱があっても、機嫌良く過ごせているなら心配ない」というのはそういう事なのですね。

★前に戻る                       ★次に進む

[プロローグ戻る]