第三診


「過敏性腸症候群の仕組み」

(私)
<一枚のメモを取り出して、半分水が入った水槽とその中に魚の絵を描く>
水槽の中に金魚が泳いでいます。
ここでは、水温が腸の動きの速さ、金魚がお腹の状態を表すものだと思ってください。
<水槽の上に「水温=腸の動きの速さ」、「金魚=お腹の具合」と書き足す>
この水槽の水の温度が一定で快適なら、金魚は元気です。
ところが、この水温は外の気温に左右されます。
<水槽の下に、「環境の影響で水温が変化する」と書き足す>
たとえば、ストレスや生活時間の乱れ、刺激の多い食べ物などは腸の動きを速めます。
ここでは気温が高くなる事に相当します。
<水槽の右に、「水温が上がると下痢になる。」と書く>
体の冷えや運動不足、水分不足などは逆に腸の動きを遅くします。
ここでは気温が下がる事に相当します。
<水槽の左に、「水温が下がると便秘になる。」と書く>
急に水温が変化すると、金魚が苦しみます。つまり、お腹が痛くなる事を表します。
<水槽の上に、「金魚が苦しむ=お腹が痛くなる」と書き足す>
この金魚が快適に過ごせるように調整してあげられれば、お腹の具合が悪くなる事はないということになります。
そして、環境の影響による水温の変化のしやすさが、敏感さを表します。
つまり、水槽の中の水が少ないと敏感になり、多いと安定するという事です。
<水槽の下に、「敏感さの程度は、水槽の中の水量で左右される」と書き足す>
水槽の大きさは生まれつきの持ち物で、それぞれ個人差があり、大きな水槽で腸の動きが乱され
にくい人もあれば、小さな水槽ですぐにお腹に来る体質の人もいます。
いわゆる、「過敏性腸症候群」といわれる人たちは、この小さな水槽の持ち主ということになります。
<水槽の下に、「水槽の大きさは、生まれつきの個人差」と書き足す>
しかし、この水槽はいつもいっぱいに水が入っているわけではなく、その水量は常に変化しており、今、水槽の何分目まで水が入っているかは、その時々の体力に相当します。
<水槽の下に「水の高さは、その時の体力に比例する」と書き足す>
つまり、生まれつき水槽が小さいグループの人たちは、腸の変調に悩まされやすいのですが、
体力を保って水槽の中の水を一杯に保つ努力をすれば、調子が悪くなり難くする事が出来るし、
逆にどんなに生まれつきの水槽が大きくても、ひどく疲れるなどで水槽の中の水を空に近くして
しまえば、やはり腸の変調に悩まされやすくなるという事になります。
ここまでいいですか?

(会社員)
色々ありすぎて、むずかしいな・・・
要は、その水槽の中の金魚が元気になるように気をつければいいってこと?

(私)
まさしくその通りです。それでは次に、お薬について見ていきます。
基本的にあなたの症状に合わせて使う薬は、第一にお腹の痛みをとる痛み止め、次に便秘を解消するための下剤、そして腸の動きを抑えて下痢を落ち着かせる下痢止めと、腸の動きを促進させて吐き気を落ち着かせる吐き気止めに、環境の変化に対して腸の動きを安定させる安定剤の三種類の整腸剤を加えて、合計五種類となります。
まず、お腹の痛みと言うものは、たいていの場合、腸が強く収縮することで起きてくるため、お腹の痛み止めは、腸の動きを強く抑制する働きをする薬の事をさします。
この場合、水温を急に下げる氷に相当します。
<水槽の右に、「痛み止めは氷」と書き足す>
そして、下痢止めに使う整腸剤は、腸の動きを軽く抑さえる薬の事で、ここでは、水温をゆっくり下げる冷水に相当します。
<水槽の右に、「下痢止めは冷水」と書き足す>
逆に、下剤というのは、動きの止まった腸を強力に動かす刺激剤のことで、水温を急に上げる熱湯に相当します。
<水槽の左に、「下剤は熱湯」と書き足す>
そして、吐き気やもたれ感を取るために使う整腸剤は、腸の動きを活発にさせる薬の事で、水温をゆっくり上げるぬるま湯に相当する事になります。
<水槽の左に、「吐き気止めはぬるま湯」と書き足す>
最後に、腸の動きを調整する安定剤は、腸の動きを安定させて、外からの影響を受けにくくさせる薬の事で、水温を変化し難くさせるために水槽を包む断熱材に相当します。
<水槽を包むように綿の絵を描き、そこから線を引いて、「安定剤は断熱材」と書き足す>
ここまでいいですか?

(会社員)
痛み止めに、下剤に、整腸剤って三種類もあったんだ。

(私)
<水槽の絵をもう一度見てもらいながら>
今までのあなたの症状の変化をこの絵を使って説明してみましょう。
初めに病院においでになった時には、下痢が続いていて、下痢のたびにキリキリ絞られるようなお腹の痛みを起こすという事でいらっしゃったんでしたよね。
この絵では、水温が上がりすぎていて、金魚がアップアップしている状態となります。
そこで、急いで金魚を楽にするために、いくらかの氷のかけらを入れて、それからゆっくり冷水を注いで、水温の調整を試みたのですが、使った氷が多かったか、冷水の入れ方が早かったために、
水温が下がり過ぎてしまった。
つまり、腸の動きが鈍くなる事で、便が堅くなりすぎて、便秘にしてしまった。
そこで、金魚が凍えては大変と、様子を見ながら、熱湯をちょっとだけ入れて水温を戻そうとしたのですが、注いでいた冷水を止めて、熱湯を続けざまに入れてしまったために、今度は水温が上がり過ぎて、また、最初の状態に戻してしまった、ということになります。

(会社員)
本当だ!今までの症状の変化にぴったり合ってる!!

(私)
ですから、それぞれの薬は、ちゃんと役目を果たしているのですが、その時に合った使われ方をされていないために、いい効果を出せなかったという事です。

(会社員)
うーーん、そうなんだーーー

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