第一診


「あれは強い薬だべ?」

じりじり照りつける太陽のもと、風に乗って盆踊りの太鼓が聞こえ始めた頃のある日

(私)
おはようございます。膝の調子はいかがですか?

(60代の老婦人)
<変形性膝関節症の治療中で、慢性炎症の状態が持続していて、膝の変形が進行して止められ
なくなっていたため、前回の処方時よりステロイドの併用を開始されている。>
いやー、効いた!!
この間、出してもらった薬を飲み始めたら、膝の腫れがスーッと引いて、痛くなくなった。
でもさ、やっぱり野良に出て物を持ったり降ろしたりしていると、だんだんに痛くなって来て、
痛くなるとまた膝が熱くなって腫れてくるんだよね。
それでも、一晩寝て起きると、朝には膝の腫れも痛みもなくなっているから、また動ける。
あれは良い薬だなー。

(私)
それは良かったですね。
おおむね、狙った通りの効果を出せているようです。
それでは、もうしばらく今の薬の組み立てのままで続けて、膝の腫れの具合を見ながら、だんだん
に調整して行きましょう。

(老婦人)
いや、この間出してもらった新たらしい薬はもういいわ。
だって、あれは強い薬だべ?
そったな強い薬を飲み続けたら、副作用が出ておっかないって聞いてるから、膝の痛みも落ち着いてるし、もう飲まなくてもいいんじゃないべか?

(私)
おやおや?その「強い薬にはおっかない副作用がある」っていうのは、どなたに聞いたんですか?

(老婦人)
<「コラーゲン&コンドロイチン硫酸」と書かれた瓶を取り出しながら>
これを持って来てくれた人が言ってた。

(私)
おっと、すごいのが出てきましたね。
<老婦人の出した瓶の成分表を見て、「天然由来のコラーゲン&コンドロイチン硫酸含有」と書かれている下に、添加物の表示が連なって書かれているのを確かめる>
ふむふむ、天然由来の成分だから、これなら副作用は出ないと言われたんですね?

(老婦人)
そう、確かにそんな事を言っていたっけ。
この膝の痛みとは、もうずっと長く付き合っていて、何度も痛み止めをとっかえひっかえして来たけど全然なおんなかったし、痛み止めを飲みすぎて胃をやられたこともあるし、近くに勧める人がいて、これを飲み始めたんだ。
これは軟骨に含まれる成分そのもので、もともとが自然にある成分だから副作用の心配は全くなくて、傷んでいる軟骨に直接作用して治りを速めるから、じっくりと飲み続けさえすれば、必ず新品の関節の様になれるって言われてよ。
そんで、病院の薬というのは、体の働きを歪めることで色々な効果を出そうとしているから、不自然なものが多くって、働きの強いものほど強く体を歪めるから副作用が出てくるんだといわれて、何度も痛み止めで辛い思いをして来たし、その通りだと思ったんだ。

(私)
なるほど。
東洋医学で言う医食同源の考え方ですね。
体の悪いところに含まれる成分を多く含む食べ物を食べて、治りを速めようという考え方自体は
間違ってはいません。
<老婦人が持て来た瓶を指しながら>
しかしながら、この薬ではあなたの膝の痛みは解決できないし、必ずしも副作用がなくて安全というわけでもない様です。

(老婦人)
それってどういうことだ??

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