第四診


「糖尿病=老化促進病」

(私)
おはようございます。
<カルテの診察前採血の結果を見ながら>
いい努力が続けられているようですね。

(女性)
ええ、ほんとに体重が減ったら、身動きが軽くなって、いろいろが楽になったの。

(私)
それはよかったですね。
数字的にも良好ですので、今の状態を保てれば、合併症の危険もほとんどありません。

(女性)
ところで、質問があるんですが。

(私)
はい、なんでしょう。

(女性)
糖尿病って言われると、必ずその合併症がどうだこうだって話が出てくるんですけど、それって、その採血の数字と関係しているんですか?

(私)
もちろん、大きく関係しています。
この血糖値の一か月の平均を表すHbA1cの値、悪玉といわれるLDLコレステロールの値と善玉といわれるHDLコレステロールの値との比率は、特に、合併症の進行に大きくかかわってきます。

(女性)
へー、そうなんだ。

(私)
これらの数字は、どちらも、動脈硬化の進行に密接に関連しています。

(女性)
じゃあ、その動脈硬化がすすむと合併症が起きるということですか?

(私)
まさにその通りです。
人間の体は、十分な血液が流れていることで維持されています。
ですから、血液の流れが滞ってくるということは、機能を維持することが難しくなっていくということにつながり、平たく言えば老化が進むということになります。
ですから、俗に成人病としてくくられる、高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症などの病気に共通する特徴として、血管のダメージが進むということがあげられ、言い換えれば老化促進病であるともいえるのです。
その中でも、糖尿病による血管ダメージへの影響は大きく、そして、糖尿病に伴う血管の変化は細かい血管から進んでいきやすいという特徴があるため、細かい血管が集中している目の網膜や腎臓の機能が損なわれやすく、更に、心臓から遠くの手足の先の血の巡りが悪くなりやすいため、しびれなどの神経症状が出たり、細かい傷が治りにくくなって壊疽を起こすことにもなり、これらが糖尿病の三大合併症といわれているのです。

(女性)
糖尿病の合併症って、一度始まったら治らないって言われますけど、コントロールをきちんと守っても駄目なんですか?

(私)
逆にお聞きしますけど、80歳の人が20代の体になったと聞いたことがありますか?

(女性)
ありえない!!そんなこと、聞いたこともない。

(私)
もし、こんなことができるなら、お医者はみんな二十歳のピカピカでいるはずですよね。
でも、お医者といえども、みんなそれなりに年を取って、順番に死んでいきます。
今の医学では、一度、歳を取ってしまった体は、それ以上に老化を進めないように支えてあげることが精いっぱいで、元の若い体に戻してあげることは不可能なんです。
ですから、糖尿病のために老化が促進されて、機能を失っていくことから起こる合併症というやつは、一度始まってしまうと、その後から、どんなにコントロールを良くしても、決してなくしてしまうことはできなくて、それ以上進まないように維持していくだけの、後戻りのできない、下り階段のような状態となってしまいます。

(女性)
わー怖い。
合併症の症状が出てしまったら、残りの一生、ずっとそれと付き合うことになるんだ。

(私)
そのとおりです。
ですから、糖尿病の治療というのは、合併症の進行をできるだけ遅らせて、今の何も感じていない状態を長く保つためにこそやっているということなんです。

(女性)
そうなんだ。
別に、今のところ、痛くもかゆくもないし、なんでこんなに食事を我慢しろだの、体重を落とせだの、毎月病院で採血しろだのと言われるのか、いやだなと思っていたんですけど、何も感じていないからこそ、しっかりコントロールを守る必要があるのですね。

(私)
まさしくその通りです。
実際に症状が出てしまってからあわてても、もう取り返しがつかないことになっているので、何も症状がない今だからこそしっかりやっていくことが必要なんです。

(女性)
わかりました。
病気の仕組みがわかって、なんかちょっとやる気が出てきた感じです。

(私)
今回の採血結果がすごく良好となっていますので、くれぐれもリバウンドだけに気を付けて、今やっていただいている努力をそのまま維持していっていただければよいと思います。
それでは、次回も、ちゃんと守れてるよ!と元気に来院されるのをお待ちしています。


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