第三診


「肥満の正体と正しい減量」

(私)
おはようございます。体調はいかがですか?

(女性)
食事の仕方を変えてみて、ご飯を我慢しなくてよくなった分、お腹が空きにくくなったので、間食もしなくてよくなったし、とても楽に守れるようになったわ。
でも、今度は、その指導をしっかり守ったら、どんどん痩せてきて困っているの。

(私)
<カルテの記録を確かめながら>
本当に、前回と比べて2Kgの減量に成功できていますね。
HbA1cも6.5まで改善されていて、コレステロールも正常化できています。
大変にいい傾向です。

(女性)
そうなんですか?
私は、子供を産む以前から今ぐらいの体重があったし、最近になって特に太って来ているつもりもないのに、どうして痩せなければならないの?

(私)
確かに、健康診断レベルでの肥満度の判定は、身長と体重の割合(BMI=体重Kg/身長m2)で表されており、あなたの場合も、この判定なら小太りの範疇で納まります。
しかしながら、私は、肥満は単に体重の多い少ないの問題ではないと考えています。

(女性)
それって、私が実はすごい肥満体だっていうことですか??

(私)
実はそうなんです。
私的には、実質的に肥満かどうかというのは、筋肉と脂肪の比率、いわゆる体脂肪比で決まるものと考えています。
ですから、同じ体重を保っているのに、どんどん肥満度が増すというのは有りなんです。

(女性)
それってどういうことなんですか?

(私)
結婚前後のころと、今の体を比べてみて、確かに体重の総量は変わっていないかもしれませんが、その中身について考えてみるとどうでしょう。
結婚前のころの体と今の体で、体についている筋肉の量が同じだと言えますか?

(女性)
それは、若いときのほうがもっと筋肉がついていたわね。

(私)
そうですよね。
そこで、体についていたはずの筋肉が落ちているのに、体重がその分減っていないというは、おかしくないですか?

(女性)
言われてみれば、確かにおかしいですよね、それ。

(私)
つまり、筋肉の減った分が、しっかり別のものに置き換わっていると言う事になります。ですから、見かけの体重が増えていなくても、筋肉と脂肪の比率の変化からみると、肥満が進行するということは、ありなんです。

(女性)
<自分の下腹のあたりをさすりながら>
このプヨプヨがダメなのね・・・

(私)
例えば、お相撲の力士の方々のことを考えてください。
単純に身長と体重の比率でいうのなら、とんでもない肥満で、自分の体を動かすことすらままならないはずの状態となるのですが、平気で、しかも普通の人には真似の出来ないようなハードなスポーツをこなしておられます。
それは、現役の力士の方というのは、体全体に尋常ではない量の筋肉をつけているので、筋肉と脂肪の比率でみると、実はたいした肥満とはなっていないからなのです。
そして、現役を引退して親方になった時、皆さん猛烈な減量に取り組まれて、体重的には現役時代の半分程度にまで体重が減るので、単純に身長と体重の比率でみるとぐんと肥満が解消されているはずなのに、途端に成人病で病院通いを始める方がほとんどです。
なぜかというと、間違った減量をしてしまうと、体重が減少するのにつれて、筋肉がみるみる解けていくのですが、その時点で体に蓄えられている脂肪というものは、簡単には減っていかないものだからです。
ですから、見かけ上は体重がぐんと減って、肥満が解消されたように見えているのですが、筋肉と脂肪の割合でみると、実はぐんぐん肥満度が上がっていくことになっているために、病院通いが始まってしまうということになるのです。

(女性)
うーーん、それは、まあ、そういうものなのかもしれないんですけど、じつは、私も以前に肺炎で入院した時に、3Kgぐらい体重を減らしたことがあるんです。
それで、その時にはトイレまで歩くのにも苦労するくらい、体を全く動かせなくなったのに、退院して今の体重まで戻ったら、普通に動けるようになったという経験があるので、やっぱり私にとって、体重が減るっていうのは、すっごく困るんですけど・・・

(私)
なるほど、よくそういう人がいますが、それが本当かどうかちょっと考えてみましょう。
<メモ用紙を取り出して、一番上に「体重が減ると体力が落ちるので、私には今の体重が必要だ」と書く><その下に「骨」「筋肉」「脂肪」と並べて書きながら>
体というものはざっくり分けるとこの三つから成り立っています。
<「骨」の隣に「支え=フレーム」と書きながら>
骨は体の支えとなるもので、車に例えるとフレームに当たります。じゃあ筋肉は?

(女性)
うーん、力?

(私)
<「筋肉」の隣に「力=エンジン」と書きながら>
そのとおり、力の元ですね。車でいえばエンジンに当たります。
それでは、脂肪は何になるでしょう?

(女性)
えーーっと、重り?荷物?

(私)
<「脂肪」の隣に「燃料→荷物」と書きながら>
またまた大正解!!脂肪は、筋肉が活動するためのエネルギーの保管庫になっています。
ですから、もちろん全く無くなってしまうと困るものなのですが、でも、不必要な分まで蓄えすぎると、言われる通り、それはお荷物となってきてしまいます。
此処まではいいですか?

(女性)
はい。

(私)
<「骨」「筋肉」「脂肪」の下に井型に線を引き、二段のカラムを作る>
<「骨」の下のカラム二段ともに→を書き込みながら>
高齢になるにしたがって骨も痩せてくるのですが、短期的には骨の重さというのは、そう変わることはありません。
<「筋肉」の下のカラムの上段に↓下段に→を「脂肪」の下のカラムの上段に→下段に↓をそれぞれ書き込みながら>
つまり、一般的に体重が減るということは、筋肉か脂肪のどちらかが減っているということになります。
そこで、上段の筋肉が減って脂肪が変化ない場合は、確かに力が減っての荷物が変わりないので、体重が減った分、動けなくなってしまいます。
<上に書いた「体重が減ると体力が落ちるので、私には今の体重が必要だ」からカラムの上段まで線を引く>
でも、下段の筋肉が変わりなくて脂肪が減った場合はどうでしょう?
<一番下に「体重が減った分、体を軽く動かせるようになった」と書き、カラムの下段まで線を引きながら>
つまり、力が変わりないのに運ぶ荷物が減るわけだから、動きがよくなると言う事になりませんか?

(女性)
うう、そういわれるとその通りですね。

(私)
<カラムの上段に×、下段に○を書きながら>
その「体重が減ると動けなくなってしまう」というのは、「私は、間違った痩せ方をしていますよ」と言う事と同じなのです。
実際、体を動かさずに食事だけで痩せようとすると、脂肪よりも筋肉のほうが圧倒的に早く分解されてしまうので、この間違った痩せ方をしてしまうことが多いのです。
風邪をこじらせて、何も食べられないまま何日か寝込んでしまったときなどに、げっそりと痩せて全く動けなくなってしまうなんて言うのは、その典型となります。
とはいっても、ボディービルダーのようにムキムキに鍛えるなんてことも必要ありません。
「今ある筋肉を衰えさせないように、通常通りに体を動かしながら、余分な脂肪を落として痩せること」それだけでいいのです。

(女性)
じゃあ、今のようなやせ方なら、体重が減っても怖がることはないのですね?

(私)
その通りです。安心して今のいい努力を続けてください。
あなたの身長なら、あと5-6Kg位は減っても十分に標準範囲内に納まりますから、次回の診察時にも「減ったよー!」と自慢していらしてください。


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