第三診


「膝が痛くなるのはなぜでしょう?」

(私)
<老婦人の曲がった膝をさすりながら>
さて、あなたの膝の痛みはどうして起こるのでしょうか?

(老婦人)
<けげんな顔をしながら>
前にも聞いたけど、膝の軟骨がすり減って、関節が曲がってしまったからなんだべ?

(私)
その通り、膝に無理な力をかけながら頑張って動かし続けたために、関節のクッションになっている軟骨がすり減って行くことで、関節の上と下の骨が直接当たるようになってしまい、その状態で関節を動かすことで骨同士がこすれて痛みが出るのです。

(老婦人)
だから、「軟骨に良い薬を飲んで、軟骨の厚さが戻れば、もう痛みは起きなくなる」というふうに聞いたんだけどな?

(私)
ところがそうはいかないのです。
<診察室の入り口のドアの蝶つがいを指差して>
扉の蝶つがいも新品のうちは、音もなくスーッと滑って扉の開け閉めもスムースです。
ところが、だんだん蝶つがいにゆるみが出来てくると、扉を開け閉めするたびにギーッと音がする
ようになって、扉自体もガタガタしてきます。
しかしながら、たとえそのように音が鳴り易くなった蝶つがいでも、蝶つがいに油を注しながら、扉を支えてゆっくり開け閉めする様に気をつけることで、新品の時と同様に音もなく扉を開け閉めする事だって出来ます。
でも、そんな音が鳴り易くなった蝶つがいがついた扉をバタンバタンと乱暴に開け閉めすると
どうでしょう?
扉の蝶つがいのゆるみがもっとひどくなって、ついにはすっかり壊れてしまう事になりませんか?
あなたの膝は、その今まさに壊れかけている蝶つがいと同じ状態なのですよ。

(老婦人)
じゃあ、「痛いのはもう年のせいなんだからどうしようもない」ってことなのかい?

(私)
そうでもありません。
痛みを呼ぶポイントは、軟骨がすり減って骨と骨が直接当たる様になったからではなくて、骨同士がこすれる様に動かされる事にあるのです。
ですから、たとえ膝が変形を起こしていても、無理に動かなさければ痛みは出ないのです。

(老婦人)
だったら、「歩くな」ってごどか??

(私)
それも違います。
動いてもいい、歩いてもいい、仕事をしたって構いません。
ただし、「頑張りすぎない事、膝の痛みを感じ始めたら、そこまでにする事」をお願いしたいだけ
なんです。
結局、限度を超えた頑張りをするために、自分で自分を辛い思いをさせているんだという事に気付いてほしいのです。

(老婦人)
なんだい、「膝が痛い」って言えば、今まであれだこれだと「痛み止め」だって薬を出してよこして
おいて…まあ、確かに「痛み止め」を飲めば、ちょっとの間だけは痛みが軽くなるんだけど…、
いくら「痛み止め」を飲んでも痛みが無くならないのは、おらのせいなんだってっか?

(私)
残念ながら、その「無理」が、膝の痛みが無くならない大きな原因の一つなんです。
もともと体には、故障を起こした箇所を自動的に修復しようとする働きが備わっています。
あなたが飲むように勧められた「コラーゲン&コンドロイチン硫酸」の薬は、栄養剤として確かに
その軟骨の修復に良い様には働く事でしょう。
しかし、その体が自動修復をするペースより、無理をかけて体を壊すほうが勝っていれば、ダメージが蓄積して体の変形が生じてきます。
つまり、あなたのその曲がった膝は、「俺は膝を無理に使い続けてきたぞ」と宣言しているのに等しく、その「無理」な使い方を改めない限り、残念ながら痛みから逃れることはできないのです。

(老婦人)
んだってかーーー。

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