第二診


「此処でやって仕舞えないの?」

山の上から木の色が変わり始め、キノコ狩りの声を聴くようになったころのある日

(私)
おはようございます。前回の検査結果が出ていますよ。

(60代の恰幅のいいおじいさん)
<街の健診で。高脂血症と耐糖能障害を指摘されて、二次検査をしている>
そうですか、結果はどうでした?

(私)
一言でいえば、予想通りのメタボです。

(おじいさん)
そうなんだ。

(私)
腹部超音波検査では、アルコールの影響もあり、がっちりした脂肪肝を確認されていますが、採血検査では、まだ治療が必要な糖尿病にしてしまっているわけではなく、ちょっと食事の指導を受けていただければ十分に対応が可能な状態と考えます。

(おじいさん)
やっぱり、やせなきゃダメかい?

(私)
残念ながら、その通りです。
それと話は変わりますが、このところおしっこを出そうと思っても出始めるまでに時間がかかるとか、ちょろちょろしか出てこないので、息んでやらないと出せなくなっているなんてことはないですか?

(おじいさん)
え??!
確かに、ここ半年前ぐらいからだんだんおしっこを出そうとしてトイレに入っても、おしっこがなかなか出なくて困るようになってきてはいるんだけど、それがどうかしたの?

(私)
実は、腹部超音波検査で前立腺の肥大も認められています。
そして、ただ膨らんでいるだけでなく、内部に別の腫れがはまり込んでいるように見えたため、念のために悪性の腫瘍に反応する採血検査も追加しておきました。

(おじいさん)
わしの前立腺が大きいの?
年を取ればみんなそうなるんでしょう?

(私)
はい、ただ大きいだけならばそうなんですが、あなたの場合には、その悪性の腫瘍に反応する検査でも陽性となっており、前立腺のがんの可能性があります。
専門的な精密検査と場合によっては手術を含む治療が必要となるため、県庁所在地の総合病院への紹介が必要となります。

(おじいさん)
県庁所在地まで行かなきゃないって?めんどうだなー。
手術でも何でもいいから、此処でやって仕舞えないの?

(私)
残念ながら、それはできないんです。
メタボに関する指導や管理なら、ここで十分にできますし、今回、前立腺に異常を見つけたように、おかしい所があるかどうかを探す検査についても、ここでおおむね出来るのですが、いざ、おかしなところが見つかった時には、異常が見つかった内臓を専門とする科での精密検査を受けないと、その先の治療につながっていけないものなのです。
それよりなにより、此処は内科なので、手術が必要となるとお手上げなのですよ。

(おじいさん)
それもそうか、餅は餅屋だってことだな。

(私)
お分かりいただけて幸いです。
それでは、今回の検査結果を添えて県立総合病院の泌尿器科宛に紹介状を用意しますので、早めに受診してきちんと診てもらってきてください。
総合病院での仕事が終わったら、こちらに戻ってきていただいて、それからじっくりと、今回の検診で指摘されたメタボについて相談していきましょう。


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